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2025-10-12
#雑記

戦闘は局所化する

今年頭ごろに、ウクライナによるドローン攻撃のニュースを見て、世界が驚いているという報道を目にした。たしかに、新しい戦術が初めて使われる瞬間は驚きと共に大きな成果を生む。そして、戦争に限らず、あらゆる競争において見られるパターンが「戦闘の局所化」という現象だ。

将棋に見る戦術の進化

僕が小学生の頃、まだAIが人間よりも将棋が弱かった時代、プロ棋士による新戦術や定跡がどんどん開発されていた。「ゴキゲン中飛車」なんかはその一つだった。

ゴキゲン中飛車は当時、強力な戦術だった。しかし、その定跡の分岐は次第に研究されていった。有効で強い戦術であるほどに、研究が進むのだ。研究が進むと、どこでどのように振る舞うべきか、どうすれば後段で圧倒的優位を取られないかということがわかってくる。

つまり、戦闘が局所化していくのだ。ある場面での有効手を打つ、それに対して最善手で応じる。こうして戦闘は特定の局面へと絞り込まれていく。

局所化が進むと、ある戦術がどれほど強くても、それが有効打になる前に対策を打ち切られてしまうようになる。その戦術を有効打として成り立たせるには、幾重にも張り巡らされた防御手段を掻い潜る必要が出てくる。やがてその戦術は、もはやコストに見合わなくなるのだ。

そうなると、その戦術ではない、まだ発見されていない有効打を与える方法を編み出さなければならなくなる。将棋AIにおいて研究する「局面数」が重要なのも、局所化された戦闘において、より多くの局面を深く読み切ることで優位に立とうとするからだ。

あらゆる競争に共通する法則

全ての競争において、戦闘は局所化していく。

これは将棋や戦争だけではなく、ビジネスの世界でも同様だ。新しいマーケティング手法が登場すると、すぐに競合他社が模倣し、対策を講じる。革新的な技術が現れると、それに対抗する技術や規制が生まれる。画期的なビジネスモデルが成功すると、類似のサービスが次々と登場する。

現代のAI技術競争も同じパターンを辿っている。各社が同じような技術的課題に取り組み、局所的な改善を競っている。しかし本当の勝者は、全く新しいアプローチや応用分野を開拓する者かもしれない。

個人のキャリア戦略においても、この原理は重要だ。既存のスキルを極めることも大切だが、それだけでは局所化された競争に巻き込まれる可能性がある。新しい領域への挑戦や、異なる分野の組み合わせによる独自性の創出が、長期的な優位性を生むのだ。

戦場を変える戦略的思考

局所化された戦闘に勝つことではなく、新たな戦術を生み出し、戦略的に勝つことが有効になっていく。既存の戦場での戦闘に固執するのではなく、戦場そのものを変える発想が求められる。これがイノベーションの本質でもある。

戦闘の局所化は、競争が激化し成熟していく過程で必然的に起こる現象だ。この原理を理解することで、僕たちは現在の競争がどの段階にあるかを見極められる。そして局所化された戦闘から抜け出す新たな戦略を模索する重要性を認識できる。

重要なのは、局所化された戦闘で勝つことではなく、戦場そのものを変える戦略的思考を持つこと。

これこそが、真の競争優位を生み出す鍵であり、織田信長が今川義元を打ち負かした桶狭間の戦いのように、リソース的弱者が強者を打ち負かす唯一の手段なのだ。